2007年 10月 04日
カレーそば
おおかたの人が
神戸と言えば三宮より西と思っているようだが
・・・まあ、それでおおむね間違いではないのだが

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ひと気のない二宮商店街
Fuji FinePix F30

JR三ノ宮駅から数百メートル東へ行くと
つまり
徒歩にして十分足らず大阪寄りに歩むと
二宮商店街である
いきなりこんなに寂しい場所へ出る
これが神戸なのかと思わざるを得ないほど
ひと気がない
さらに百メートルほど東へ進むと
二宮筋(にのみやすじ)商店街である
こちらもひと通りは極めて少ない
この二つの商店街を二宮市場がつないでいるが
真っ昼間だというのに
市場は半分以上の店がシャッターを下ろしている
まるでゴーストタウンだ
天下茶屋の駅前商店街を思い出す
このあたりはまだ平成になっていないような気がする

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役宅を出た平蔵は
塗り傘で顔を隠し
ぶらりと二宮あたりへと出た
二宮商店街を北へ
アーケードが切れたあたりに
手打ち信州そば「長野屋」はある

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手打ち信州そば「長野屋」 

密偵、亀屋の元次郎によると
なかなかうまいカレーそばを食わせる店らしい
「だまされたと思って食ってみるか」
暖簾を潜り
引き戸をあけると
「いらっしゃいましー」
明るい元気な女の声が響いた
昼をだいぶ過ぎてはいたが
店の中はなかなかの繁盛ぶりであった
「カレーうどんはできぬのか」
「うどんもございますが、うちのそばはおいしゅうございますよ、お武家さま」
「ほぉ、さようか。ではカレーそばにしよう」
「かしこまりましてございます」
平蔵の看たところ
店の者にも客にも別段怪しむべきところはなかった
ほっと肩の荷を下ろした気分になった平蔵であったが
その後に入ってきた客を見て
再び平蔵の肩に重い空気がのしかかった
「見覚えがある」
このことであった
客は女だった
女というより老婆に近かった
見覚えがあると思ったが
実際に見るのは
これがはじめてである
つまり
平蔵はその女の人相書きを憶えていたのであった
「カレーうどん」
もちろん
声を聞くのははじめてである
女にしてはドスの利いた低い声であった
平蔵は古い記憶をたどった
「そうか、思い出したぞ」
女は掏摸であった
島ノ倉の巾着切り、お千代という女掏摸であった

平蔵の前にカレーそばが運ばれてきた
カレー出汁の良い香りが漂ってきた

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長野屋名物カレーそば

カレーあんがたっぷり張られた出汁の上に
ソースで渦巻き模様が描かれていた
「ほぉ・・・これは面白い」
「下からぐるりとかき混ぜてお召し上がりください」
平蔵はかき混ぜる前に
箸先でソースを突いて舌に乗せてみた
「むむ、これは甘い・・・な」
言われたように底から出汁をかき混ぜ
そばを口に運んだ
「おぉ、これはなかなか見事じゃ」
ピリッとしたカレー出汁に、甘口のソースが絶妙に馴染んでいる
しかも、カツオ出汁のよい香りが負けていない
そばもコシがあってなかなかうまい
「ふふふ、亀屋の元次郎も捨て置けぬな・・・」
悦に入りながらも
平蔵はお千代から目を離さなかった

「いらっしゃいましー」
ひときわ明るい声に招き入れられた客が店に入ってきた
でっぷりと太った大店の主といった風情である
たてにも横にも
まるで角力取のような大男である
脇に店の若い衆を従えている
「四人や、席はあるか」
「へえ、こちらへどうぞ」
店の女が奥の席へ案内しようとしたそのとき
「勘定はここへ置くよ」
と、島ノ倉のお千代が席を立った
かと思うと
よろめくようにして客の大男にぶつかった
「あ、もうしわけありません」
「これこれ、気ぃつけなはれや」
「ごめんなさいまし」
お千代は店を走り出た
だれも気づかなかったが
平蔵は見逃さなかった
「見事な指さばきじゃ」
お千代は一瞬のうちに男の巾着を切っていた
もちろん大男はまったく気づいていない
お千代に続いて平蔵も店を飛び出た
「待て、女」
呼び止められてお千代は振り向いた
「なんだい」
「今の店で男の懐に手を入れたな」
「なにを証拠に」
平蔵はそれには応えず
いきなり抜刀した
もちろん斬るつもりはない
しかし、お千代は震え上がった
逃げようとしたが足がすくんで動かなかった
「だっ、だれなんだい、おまえは」
「火付け盗賊改め方、長谷川平蔵である」
その声を聞くや
へなへなと
お千代はその場に座り込んでしまった
どうやら腰を抜かしたようだ
「島ノ倉のお千代だな」
すべてを平蔵に見透かされた気がして
お千代は観念した
「さ、さようでございます」
「だまってお縄につくか」
「は、はい」
もちろん
お千代は鬼の平蔵の名は知っていたが
まさか
自分が捕まろうとは思いもよらなかった
「ふふふ、のぉ、お千代よ」
「はい」
「それにしても見事なうでじゃのぅ」
「畏れ入りましてございます」
「しかし、ひとつだけ言っておこう」
「なんでございます」
「あの店でうどんはいけねえよ。そばを食わなきゃ・・・な」
平蔵はお千代から金を奪い返すと
お縄にはせず見逃してやった
「なぁお千代、もしおめえにその気があるなら俺に力を貸してくれぬか」
「は、長谷川さま・・・」
平蔵はお千代の目に光るものを見た

平蔵は長野屋に戻った
「ご亭主、この巾着に憶えはないか」
「あ、それはわての・・・」
「さっきここで女に掏られたのを取り返してきてやったぞ」
「ひやっ、それはそれは、おおきにすんまへん」
「お武家さま、お勘定を・・・」
食い逃げされたかと肝を冷やした店の女が言うと
「おお、なにをゆうてまんのや、勘定はわてがお払いしまんがな」
と、財布が戻った大男は上機嫌で言った
「そうか、それはすまぬな」
どんぶりを片付けようとしている店の女に平蔵は
「おっと、そのどんぶりをどうする」
「へえ、片付けますので」
「まだ出汁が残っておるではないか。しばらく待て」
そう言うと
平蔵は少し冷めた出汁を
ずずず
ずずず
と、うまそうに飲み干したものである

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「うむ、うまかった。またくるぞ」
「ありがとうさまにございます」

店の外に出ると
お千代のすがたはもうどこにもなかった
それから数日後
清水門外の平蔵の役宅を
お千代が訪ねたことは言うをまたない
十月に入ったとはいえ
まだ日中は暑気が残る昼下がりであった







 

by ikasasikuy | 2007-10-04 14:43 | カレーうどん改メ | Comments(24)
Commented by バビロン at 2007-10-05 01:29 x
待ってました!久々の平蔵殿の登場。
へ~。二宮という場所にあるんですか。この店。
兵庫県は鬼門でして、泣きの涙でバイトで通った阪神競馬場と不合格にされた六甲の某大学ぐらいしか記憶にありません。こんど暇なときに行ってみたいと存知ます。
Commented by MUN! at 2007-10-05 05:27 x
パチンコの題材にもなってる演歌な歌手と居合わせた、てことですかね。
なんにせよ、ご無沙汰だった平蔵様の活躍はうれしい限りであります。
Commented by maix at 2007-10-05 07:27 x
うずまきがおしゃれやんかー
わたえもたべたいどす
Commented by 平蔵 at 2007-10-05 10:19 x
バビロンせんせ
お待たせいたしました
まだ若干暑い日もありますが
いよいよ本格的なカレーうどんシーズンの到来です
アベノのグリルマルヨシが移転ということもあって
なにかとあわただしいこの秋ですが
カレーうどん改方一同
総力を挙げて任務の遂行にまい進する次第であります
何卒御贔屓お引き回しの上
宜しく御願い奉ります

ほんで
六甲の某大といえばあの
エンドレス森下氏のご子息がお通いになっておられる
あの大でしょうか
そうですか
うむむ
Commented by 平蔵 at 2007-10-05 10:22 x
MUN!さん
パチンコをしないので
どゆものか知らないのですが
たぶんそのお千代さんと同一人物だと思います
ほんで
NATURAMはニセモノなので気をつけてください
え?
ちゃんとスペル確認してから買え?
まったくです
いや
お恥ずかしい次第です

Commented by ささき at 2007-10-05 10:26 x
MAIXちゃん
ほな26日に行きましょう
エデン→高田屋→新開地劇場→皆様食堂→長野屋→味韓
豪華グルメ&観光ツアーを計画しています
Commented by bugscope at 2007-10-05 11:06
平蔵シリーズも筆に艶が出てきましたねぇ。
細かい描写や次回につなぐところなど
えらい読ませますやんか。
ぜひ、タイトルを変更し
メインコンテンツに移行されますよう
心よりお願い申し上げます。
Commented by ふっじん at 2007-10-05 12:23 x
お見事です!!
修行中にもかかわらず読み入ってしまいました
今後のお千代さんの活躍が気になります!
実はわたしも今朝自家製カレーうどんを食べてきました
もちろん出汁まで完食です
Commented by 平蔵 at 2007-10-05 13:31 x
bugscopeさん

プロのモノ書きにほめられたら
ありがたくも
恥ずかしゅうて
身の置き所に難渋しますがな
ほんで
これをメインコンテンツに....?

むりっす!
Commented by へー蔵 at 2007-10-05 13:36 x
おお
修行中のふっじんさんまでご覧いただきましたか
畏れ入ります
ほんで
大阪カレーうどんツアーの件ですが
ふっじんさんの会社
平日の休みあるんですか?
大阪のうどん屋の9割以上が日曜祝日休みです
中央卸売市場が休みの日は
たいがいの店閉めてます
困った....

26日ひま?
Commented by ふっじん at 2007-10-05 18:44 x
えっ!そうなんですか!?
それが平日休みはないんです…
銀行と同じでカレンダー通りの出勤です
しかも皆勤賞です
26日も昼間は修行に行かなくてはなりません
あぁ~残念…
すみません
Commented by sasaki at 2007-10-05 20:37 x
ふっじんさん
それは残念です
26日は夕方から参戦というテもあります
いっぺんまいちやんと相談してみてください
Commented by ken-G at 2007-10-05 21:10 x
おぉ!
カレーうどんの季節を知らせるが如き、久々の平蔵さん登場ですね!
たのしみたのしみ!

あぁ、またあのカレーうどんが食いたくなってきました・・・。

Commented by ささき at 2007-10-05 21:57 x
ken-Gさん
ごきげんさんです

あの
カレーうどん
というと
「あさひ」ですね
うひゃひゃ
あこのカレー天ぷらうどんは絶品ですからね
いつでも食べにきてください
おまちしております
Commented by MUN! at 2007-10-06 07:33 x
私もパチンコ、パチスロはまったく興味がないのですが、たまたまこの記事を読む直前に、テレビでCMが流れてました。
http://www.fujimarukun.co.jp/products/machine/shimakura/spec/index.html
宣伝しまくり千代子とか言って。

あぁ、香川で食べたカレーうどんがまた食べたくなってきた……。
Commented by ささき at 2007-10-06 07:45 x
香川のカレーうどんというと
やっぱり歯応えのあるうどんでしょか
こんだ大阪に来るときは必ずゆうてくださいね
日本一うまいやつをご馳走します
そらもうびっくりしますよ
あまりのうまさに腰抜かしてもしらんから・・・
Commented by maix at 2007-10-06 23:49 x
やった〜!
ついにカレーうどんツアー敢行や〜
ふっじんもいこうや〜
はなきんカレーうどんツアーや!!
Commented by ikasasikuy at 2007-10-07 00:01
maixさん
あのね
ここはうどんやのぉてそばや
Commented by ふっじん at 2007-10-07 00:18 x
夕方から参加もお許しいただけるのですか!?
なんて寛大な…
ありがとうございます!
maixさんとそうだんします!
興奮してきたのでさやちこりんも誘ってみます!
Commented by Jellyfish at 2007-10-07 00:53 x
うわっ!
「長谷川平蔵とゆく秋のカレーうどんツアー」ですか!?
な、なんとうらやましい。。。(涙)
Commented by ikasasikuy at 2007-10-07 01:00
ふっじんさん
そないし
そないし
Commented by ikasasikuy at 2007-10-07 01:01
うらやましい。。。て
泣かんでもよろしがな
ほな
くらげさんもごいっしょに

Commented by Kenneth.K十三○番弟子 at 2007-10-08 23:39 x
おぉ、平蔵殿が秋風ととも戻ってまいりましたか。
お待ちしておりました。

長谷川平蔵とゆく秋のカレーうどんツアー
実にすばらしいです。
条件がそろえば参加させていただきたいのですが
なにぶん相模の国に在住ゆえ
ままならぬ悔しさであります。
いづれの御時にか是非。

そういえば最近、後流御の十三が相模国に現れたが
すぐに所在が分からなくなったとの噂が。。。
Commented by 長谷川平蔵 at 2007-10-09 00:46 x
Kenneth.K十三○番弟子さん
今日
時代劇専門チャンネルで
朝の5時からいままで
ず〜っと鬼平やってます
まだ朝の5時までありますが
もう寝ます

そろそろ
カレーうどんの季節です
ばんがります


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