2007年 01月 13日
和純
先日召し捕った西ノ宮名塩の山賊の中に
富伊豆の雅造という盗賊がいた
顔の大きさがゆうに常人の二倍はある
実に目立つ盗人ではある
雅造の取り調べに当ったのは同心、横山であった
横山といえば
カレーうどん改方の同心の中でも
責めの厳しいことで有名である
三日三晩寝ず食わずの責め立てであったそうな

「横山、どうであった」
「長谷川様、ついに白状に及びましてございます」
「おお、吐いたか」
「なかなかにしぶといやつでございましたが」
「うむ、ようやった。して」
「天王寺真法院町にございます」
「なに、天王寺とな」
「左様にございます」
「うむ、これは期待が持てるのう」

富伊豆の雅造が吐露した言葉に嘘はなかった
上町筋の東、天王寺役場のすぐそばに
その店、つまり
うどん屋「和純」はあった

和純_c0120913_1821275.jpg
ゴテゴテした店構え(店内も極めて大衆的)

昼を大分に過ぎていたが
店の中は客でごった返していた
なるほど
噂に違わぬ繁盛ぶりである
客の大方がカレーうどんを食している

平蔵が奥の席に座ると
腰の曲がった店の老婆が茶を持ってきた

「いらっしゃいませ」
「この、熟カレーうどんとはいかなるものじゃ」
「へえ、熟したカレーうどんにごぜえます」
「なるほど、そのまんまじゃの」
「へえ、そのまんまでごぜえます」
「普通のカレーうどんとは違うのじゃな」
「さようでごぜえます、多少辛うごせえますよ」
「よし、熟カレーうどんをたのむ」
「かしこまりましてごぜえます」

待つこと十分弱
熟カレーうどんが運ばれてきた

和純_c0120913_18213918.jpg
見るからに濃厚なカレー出汁

濃い色のカレー出汁である
まず出汁をひとすすり

「むむむ、こい・・・」

出汁が濃いのである
片栗粉や葛でとろみをつけた濃さではなく
カレールウそのものが濃いのである
たしかに
かつお風味が漂い
うまみが口の中に広がるのだが
それにも増して出汁が濃い

つぎに
うどんをひとすすり

「うむ、これは良い」

手打ち麺らしいが
適度な歯応えと微妙なコシの抜け具合が絶妙である
このうどんがありながら
返す返すも出汁が残念である
首を何度も傾げつつ
出汁をおおかた飲み残した平蔵は店を出た
真っ青な冬空が寒々しく輝いていた

その日の夜
役宅に戻った平蔵を横山同心が迎え出た

「長谷川様、いかがでございました」
「気になっておったのか」
「はっ」
「あの店はいかぬな」
「さようで・・・」
「富伊豆の雅造、なかなか見所のあるやつと思ったのじゃが」

うまくいけば
雅造を密偵に取り立てようと考えた平蔵だが
どうやら看立て違いであったようである
後日
獄門だけは免れたものの
富伊豆の雅造は佐渡送りとなった

「横山」
「はっ」
「世の中、思うほど甘くはないのう」
「左様でございますか」
「ふふふ、極めて辛かったわえ」
「・・・」

by ikasasikuy | 2007-01-13 18:20 | カレーうどん改メ


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