2006年 09月 27日
茂凡
心斎橋
大阪で最も人の集まる土地である
この辺りから千日前にかけての賑わいは、
名古屋の栄、京の京極を凌ぐ華やかさがある
赤い提灯、青い提灯が道頓堀川の川面に揺れる様は
江戸時代から今日に至るまでいささかも変わるところがない
また
このように人の集まるところには
うまいカレーうどんの店が人知れずあるものである
また
盗賊どもにとっても格好の隠れ蓑になる
人ごみに紛れて返って見分けにくくなるからである

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先日
大江山で捕らえたなめ役青島の光造を吐かせたところ
大繁盛している大店の建物間取図や情報を
ミナミ界隈を荒らしまくっている盗賊・天下茶屋一味に売っていたことが判った
心斎橋の大丸呉服店(下村彦右衛門正啓)
十合呉服店 (十合伊兵衛)などの大店だが
大丸とそごうの間の道を東に入ったところの
屋号を「茂凡」といううどん屋もそのひとつであった

(なめ役=自らは盗めはせず盗賊に情報を売って生計を立てる者)


今日の平蔵は
自らがカレーうどん改方であることを隠さねばならぬ
したがって
念を入れて托鉢僧の姿に変装していた
店に入っても笠を取らず
笠の下から店内に目を光らせていたのである

「水うどん」の大きな看板が揚がっている
ごちゃごちゃとした繁華な町中にある店にしては
店内はゆったりとした造りで落ち着きがある
昼時を外していたので客はまばらだが
それでも評判の店らしく客足は途切れない
平蔵は
「初めて入る店にしては居心地の良い・・・」と
思ったものである

小女が茶を供しつつ
「何にいたしましょう」
「このポパイカレーうどんとはいかなるものですかな?」
「ほうれん草入りカレーうどんでございます」
「ほお、つまり、精進カレーうどんということですかな」
「さようでございます」
「それは拙僧向きじゃ、よし、それをいただこう」
「かしこまりました」
平蔵は声の調子も僧侶らしく慎ましやかにポパイカレーうどんを注文した

待つこと十分弱
出てきたカレーうどんは
握りしめたようなほうれん草のおしたしがぽつねんと乗っていた
しかも卵とじになっている
「むむむ、玉子か・・・これはいかぬ」
一度はがっくりと肩を落とした平蔵だが
卵はしっかりととじられていて生臭さはまったくない

茂凡_c0120913_17335736.jpg


とりあえず出汁をひとすすり
「おぉ」
平蔵は出汁のうまさに瞠目した
蕩けるようなカレールゥに
かつお出汁がびしっと決まっている
とろみも適度でくどさはまったくない
麺をひとすすり
「おぉ」
平蔵はまたも瞠目した
なんという素晴らしい歯応えだ
「これがうわさの水うどんか・・・」
讃岐のような強い弾力はない
それでいて筆舌に尽くしがたい独特のコシがある
この食感は
「カレーうどんにジャストなタイミングでフィットしている」

思わず平蔵がつぶやいたものである

どうやら茶を運んできた小女が引き込みに入っているように思えたが、いまの平蔵にはもうそんなことはどうでもよかった
ただただうまいカレーうどんに陶酔しきっていたのである
平蔵はあまりのうまさに
探索のことも忘れて一気に食べきった
もちろん出汁の最後の一滴まで飲み干した

(引き込み=あらかじめ狙いをつけた店に従業員として潜入させた者)

by ikasasikuy | 2006-09-27 17:32 | カレーうどん改メ


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