2008年 07月 18日
釜あげうどん「豊」
梅雨のある日
丹波篠山山家の猿退治見物の帰り道
平蔵は三田の宿へ立ち寄った
前夜の大雨で
武庫川は激しく増水し濁流となっていた
安政年間
梅雨の長雨は大水となって
幾度となく三田藩の田畑を水没させ領地を蝕んだ
元凶はこの武庫川であった

篠山を発つ折り
藩主北中五郎左衛門の妻女松乃から
三田宿を通るなら是非にもと
うまいカレーうどん屋を教えられていたのである
果たしてその店は街道沿いにあった

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Fuji FinePix F30


街道沿いにありながら
目立たぬ佇まいの店であった
中食には少し早いが‥‥‥
平蔵が暖簾を潜ると店の女将が応対に出た
店の中は他に客はいなかった

「いらっしゃいませ」
「開けたばかりか」
「さようでございます」
「今日は蒸すのぉ」
「さようでございますねぇ」
「汗が引かぬわ」
「冷たいうどんにいたしましょうか」
「いや、カレーうどんをたのむ」
「かしこまりましてございます」

厨房には大柄な男がいた
この店の主であろう
ぼんやりした顔つきだが
目の配り方にやや気になるところがある
この亭主
ただものではないと平蔵は踏んだ
しかし
今日は捕り物ではない
物見遊山の旅の帰路である
平蔵は見て見ぬ振りをすることにした

待つこと十五分
大きな丼が平蔵の前に運ばれてきた
カレーの強い香りが鼻をついた

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超濃厚激辛カレーうどん
Fuji FinePix F30


まず
出汁をひとすすり

「うむむ・・・これは・・・」

平蔵は昔
西ノ宮の宿で食したカレーうどんを思い出していた
たしか「番場亭」という店ではなかったか
いや
そうだ
まちがいない
あのときと同じだ
ひとくち出汁をすすっただけで
平蔵の額からは汗が噴き出していた
つまり
辛いのである
それも尋常な辛さではなかった

「これはいかぬな」

次に麺をひとすすり
手打ちの細麺は上等であった
逢坂久宝寺の「一心」を思わせた
しかし
出汁がいかぬ
泥田のような重い出汁である
それは
麺が持ち上がらず「ぶつぶつ」と切れるほどであった

「これはいかぬわ」

まさに
箸にも棒にもかからぬとはこのことであった
平蔵の口の中は感覚を失い
唇も舌もひりひりしていた
冷たい茶を立て続けに三杯飲むと

「勘定をここに置くぞ」

平蔵は早々に店を出た
やはり田舎は田舎である
洗練された逢坂のカレーうどんとはほど遠い
いた
期待したこっちが悪かった
塗り傘を深くかぶり
肩を落としつつ街道を急ぐ平蔵であった

いや
待てよ

「もしや松乃に謀られたか・・・」

いや
まさかに・・・

平蔵の瞼に
ほくそ笑む北中五郎左衛門の妻の顔が
浮かんでは消えた

by ikasasikuy | 2008-07-18 15:03 | カレーうどん改メ | Comments(8)
Commented by ちっち at 2008-07-18 20:48 x
平蔵さま
夏のカレーうどん
ごくろうさまです

それより
いつもの川が消えてる…
Commented by ikasasikuy at 2008-07-18 21:40
ちっちさん

あっらー
コメントが消えてしもてるわ

Commented by Kenneth.K十三○番弟子 at 2008-07-18 21:45 x
うむむ、平蔵殿
昨年は暑い間はカレーうどんを召されなかったと思いますが
今年は一味違うようですな。
しかし、酷暑に、濃厚な、激辛の、しかもブツブツの。
ご愁傷様にござりまする、
Commented by ikasasikuy at 2008-07-18 21:49
剣之助殿
ここのカレーうどんはいかぬ
まったくもっていかぬ
ああ
うまいのが食いたい

Commented by バビロン at 2008-07-18 23:59 x
平蔵殿が女人に誑かされるとは・・・・。
この暑さ故、おそらく油断なされたのでありましょう。
Commented by ikasasikuy at 2008-07-19 01:21
芭備論殿
おなごを侮ってはいけませぬよ
おなごの前では男など
赤子のようなもの
貴殿も努々気を引き締められよ

Commented by Kenneth.K十三○番弟子 at 2008-07-19 08:57 x
おなごはげに恐ろしきものでございます。
ワタクシも不得手であります。
あなごならなんということもないのでありますが。
Commented by ikasasikuy at 2008-07-19 09:17
剣之助殿
なるほどなるほど
アナゴは得意
うむむ
そういう言い方で言うと
ボクの場合
タナゴは大得意です
ただし
イナゴはちょっと苦手かも
バッタのくせに
顔がいかついでしょ



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