2007年 01月 15日
あさひ
名塩の山賊の取調べは大方終わったが
その中にもう一人
平蔵が気に留めた盗賊が居た
「和田山の蓑吉(みのきち)」という
なんの取得もなさそうな男であったが
平蔵は何やら感じるところがあり
蓑吉を呼びつけ直々に尋問をした

「箕吉、お前の出生はどこだ」
「どこだっていいじゃござんせんか」
「生まれたところを知らぬのか」
「ほっといておくんなせい」
「親御はまだ健在なのか」
「知りやせんよぅそんなこと」

取り付く島も無いとはこのことである

「ときに蓑吉、お前カレーうどんは好きか」
「好きかだって、好きに決まってらぁ」
「ほお、そんなに好きか」
「獄門になる前に食わせてくれるってぇのかい」
「おお、お前が望みとあらばな」
「そいつぁありがてえや」

このとき平蔵は
この蓑吉をカレーうどん改方の密偵することを密かに決めていた
しかし
これを知った与力、同心たちは一様に反発したものである

「長谷川様」
「うむ、なんじゃ」
「まさかに和田山の箕吉を密偵になさるおつもりでは」
「ほお、蓑吉はいかぬか」
「頭が悪い上、極悪非道にございます」
「たしかにな」
「あのような無頼を取り立てては長谷川様の御名に傷が付きまする」
「なに、わしの名に傷だと」
「はっ」
「いいかよく聞け、わしは長谷川平蔵である。ただの長谷川平蔵だ。こんな名前が惜しくてこの稼業が勤まると思うか。わしの名も命も紙切れ同然、欲しくばいつなりともくれてやるわ」
「お、恐れ入りましてございます」
「わかればよい」
「し、失礼をいたしました」

忠言に及んだ与力・須田十兵衛であったが
平蔵の並々ならぬ決意に気圧されたか
血の気の引いた真っ青な顔で与力部屋に戻っていった


翌朝も冬晴れの抜けるような晴天であった
底冷えも幾分ゆるみ春を思わせる爽快さである
日本橋一丁目黒門市場の門外に平蔵と蓑吉の姿を見ることができる

「蓑吉、ここじゃ」
「ふうん、小さな店でごぜえやすねえ、絶対の自信だと、ふん」
「ゴテゴテ言わずに中へ入れ」

「これはこれは長谷川様、ようこそおいでなされました」
「うむ、今日は新しい客を連れてきたぞ」
「さようでございますか、ありがとうさまにございます」
「蓑吉と申す、わしの力になってくれる者じゃ、よろしゅうに頼むぞ」
「さようでございますか、蓑吉様、あさひの亭主にございます、ご贔屓にお願い申し上げます」


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カレー天ぷらうどんに命をかける「あさひ」の亭主

和田山の蓑吉はわけもわからぬまま
朝日のカレー天ぷらうどんに貪りついた

「どうじゃ蓑吉」
「・・・・・・」
「うまいか」
「・・・・・・」
「黙っておってはわからぬではないか」
「お、鬼平・・・いや、長谷川の旦那」
「どうした」
「これほどうめえカレーうどんを食ったのは初めてでごぜえやす」
「ほお、そうか、気に入ったか」
「気に入るも何も、いや、こりゃぁうめえ」
「ふふふ、この男、わしが見込んだだけのことはある」

このとき蓑吉は
自らの命を長谷川平蔵に預ける覚悟を決めていた
「このお人のために生きてみよう」
このことであった


「蓑吉、行くぞ」
「どこへ行くのでごぜえやす」
「ホルモン道場じゃ」
「ほ、ホルモン道場・・・」
「ついてまいれ」
「へい」

by ikasasikuy | 2007-01-15 18:17 | カレーうどん改メ


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